移民家族 アパートを探す

我が家に突然やって来たイランからの移民家族。

生活の立ち上げの課題を一つづつクリアしてきたが、
ついに本題、アパート探しだ。
本人たちも、何より定住の場所を見つけたいだろうし、
私達家族にとっても、できるだけ早く部屋が見つかってほしかった。

と言うのも、我が家は小さな家なので、寝室が2つしかなく、
移民家族4人にベッドを明け渡したので、
私達はリビングルームのソファーや床にゴロ寝していたのだ。

そんなわけで、彼らが到着した翌日からアパート探しを開始した。
しかし、ちょうど大学生が入居する時期でもあり、
移民家族が希望している値段の部屋探しは、難航するだろうと思えた。

そんな時、思いがけない朗報が舞い込んだ。

友人Sさんの父親が所有するアパートが空室になったと言うのだ。
「昨日空いたばかりだけど、見たい?」と声を掛けてくれたSさんは、
わざわざイラン人家族4人を迎えに来てくれ、部屋を見せに連れて行ってくれた。
Rさんは「私と娘2人が住むのだから、1ベッドルームで十分」
と言っていたのだが、Sさんのアパートは2ベッドルームだと言う。
値段も希望にピッタリだ。
しかもSさんは敷金・礼金なしでいいし、すぐにでも入居OK、と言ってくれた。

アパート内見から戻って来たRさんに早速「どうだった?」と訊くと、
「うーん」と、パッとしない表情で言葉を濁す。
しかしSさんが去った途端、
「すごく小さいアパートなのよ!あんな小さい部屋、見たことない!」
とRさんが言いだした。
子ども達も
「小さいし、汚い!」と口を揃えて言う。
Rさんは
「何年もほったらかしにして手入れをしてなかったみたい。
あんな部屋であの値段はあり得ない!」
と言うのである。

大学に近い立地で、決して高くないと思っていた私とオスカーにとっては
驚くべき発言だった。
もしかしたら前日に出て行った人が、掃除もろくにしなかったのかもしれない。
「じゃあ皆でもう一度、見に行ってみよう」とオスカーが言いだし、
仕事が終わった後、8人で車に乗り込み、もう一度アパートへ。

到着してみれば、その部屋はとてもいい部屋だった。
1階にキッチンとリビング、2階にベッドルームが2部屋あり、
掃除も綺麗にされていた。
「いい部屋じゃないか!」
「間取りもいいじゃないか!」
とベタ褒めするオスカー。
Rさんは苦笑いしている。
夫のMさんは「そうだよ、悪くないよ」とオスカーに同調ぎみ。
「これが酷いとおもうなら、他の物件も見てみればいい。
そうすればわかるはずだ」と、
オスカーが言って、決断は本人たちに委ねることにした。

帰りの車の中でRさんは助手席に座っている夫にヒソヒソ話。
その後、これ見よがしに
「あぁ、やっぱりテキサスに行こうかなぁ」と言い出した。
「テキサスに何があるんだ?テキサスに行ってどうするんだ?」
とオスカーが訊くと、
「旦那の妹の○○の・・・」と、遠い親戚がテキサスに住んでいる様な事を言う。
しかしそれ以上詳しい説明はせず、適当なことを言ってはぐらかしてしまった。

帰宅してからオスカーはイライラ。
「運転しているすぐ脇で、ヒソヒソ耳打ちしあったり、
突然テキサスに行くとか言いだしたり、何なんだあいつらは!」
Rさんもご立腹らしく、外へ出て行ってしまった。
私は急いで8人前のスパゲッティを作っていたので、
オスカーに様子を見に行くように頼むと、
Rさんは庭でタバコを吸っていたらしい。
しばらくして夫のMさんと二人で家に入って来て、
部屋を借りたいからSさんに電話してくれ、とオスカーに言っていた。
そしてまた、夕食も食べずに部屋の扉を閉めて寝てしまった。


アメリカに移住して来たばかりで、身元確認もよくできず、
クレジット・ヒストリーもないとなれば、アパートを探すのは簡単ではないはずだ。
もしRさんが「他を探す」と言い出して、
たとえ気に入った物件が見つかったとしても、すんなり入居できたかは疑問だ。
おそらく数か月分を前払いさせられるか、
オスカーが保証人になる、もしくはオスカー名義で借りるしか方法がない、
という展開になっていたのではないか、と想像する。

それに加えて、なんとRさん達はSさんに交渉して、マンスリー・レンタルにしてもらっていた。
「まぁ、3か月くらいはいると思うけど・・・わからないから」とかなり曖昧なのだ。
そんなワガママ放題な要望を受け入れてくれるアパートなんて、他にあるわけがない。
Sさんがオスカーの知り合いだからと、融通を利かせてくれていると思うと、
申し訳ない気持ちになって来た。
しかしRさん達は、そんな風には微塵も感じない様子で、
むしろ「住んでやるんだから」とでも言いたげな態度なのだ。


Sさんやオスカーがいない場所で、
「早くグリーンカード(永住権)が届かないかなぁ。
届いたらすぐにでもイランに帰りたいわ」と言っていたRさん。

じゃあなんで、永住権の抽選になんて応募したんだろう?
と内心思わずにいられない私だった。

渡米前にオスカーが冗談交じりで
「アメリカに来たからって、天国の様な生活が待ってるわけじゃないだから。
皿洗いでも何でもする覚悟で来なきゃダメなんだぞ!」
と電話で釘を刺したらしい。
その時は「わかってる、わかってる!」と笑っていたらしいのだが、
本当に、覚悟していたのだろうか?
旦那さんのMさんは、イランに戻って引き続き銀行で働くという、
ある意味無難な方法を取ることにしたわけだけど、
Rさんはアメリカで勉強し直す覚悟があったのではなかったのか?
やはり、移住と言うのは前もって覚悟しようにも、し切れないものなのかもしれない。
今までの暮らしのレベルを下げる、というのは、そう簡単なことではないのかもしれない。
結局、アメリカで生きて行こう、となんて、全然思ってないんじゃないか!

内心そうは思っても、もちろん相手に伝えるわけない。


こうして、皆がそれぞれ思う所がありながら、
どうにかアパートが決まった。
あとは引越しだ!


そうしてついに、その日がやって来る。

(つづく)
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