A Good Thing Happened! (いいことが起きたな!)

イランからの移民家族が到着して5日目。

アパートも決まり、彼らの生活の基盤はほぼ整った。
その日、RさんMさん夫婦は二人でマットレスを買いに出掛け、
戻ってくると、オスカーに「今日の夜7時までに受け取りに行かなければならない」と言った。

この時、オスカーの中で「これぞチャンス!」と閃いたアイデア。
トラックでマットレスを受け取りに行き、
同時にスーツケースから人間から、一切合財を詰め込んで、
引っ越しを済ませてしまおう、と。

私達は普通に仕事をして夕方6時に店を閉め、家に帰った。
オスカーが移民家族4人に
「よし、全部積んで引っ越しだ!」と宣言。
しばらくベッドルームでごそごそしていた後、Mさんが
「いやぁ、まだ皿も何もないし・・・今日引っ越さなくてもいいんだけど・・・」と
オスカーに言いに来た。
「いや、今日ならトラックも準備したし、マットレスと一緒に運んでやれるけど、
明日になったらまた忙しいから、今日できることはやってしまわないと!」
と押し切って、急き立てる様に準備をさせ、トラックと車2台に分かれてアパートへ。

荷物を全部運び込み、オスカーが「めでたい!めでたい!」と陽気に盛り上げ、
子どもも大人も、皆笑顔で嬉しそうにしていた。
そして皿や調理用具がないので、私が家族4人を最寄りのお店に連れていくことになり、
オスカーとうちの子ども達は先に家に帰ることになった。


移民家族4人を車に乗せ、走り出してしばらくすると、
Rさんが「えー!ここら辺て安全なの!?」と言い始めた。
どうやら、黒人が歩いているのを見て驚いたらしい。
「危ない地区ではないよ」と説明しながら、店に到着。
店内でも、お客さんや店員とすれ違っては
「また黒人!どうしてこんなに黒人ばっかりなの?
ここは危ないんじゃないの?」
と、言い続けるので、半ばあきれてしまい、
「アメリカは色々な人種がいるんだから、慣れるしかないよ」と言った。
するとRさんが露骨に嫌な顔をして、
「慣れろ、だって!」と吐き捨ててから、ペルシャ語でブツブツ文句を言いだした。

そこから彼女の機嫌が急降下していった。
私が寝具売り場でフルサイズのシーツを取ろうとしていたRさんに
「Rさん達が買ったマットレスはツインだからこっちだよ」と言うと、
私を睨み、夫にペルシャ語で文句を言っていた。
それを見た子ども達が気を遣って
「いいよ、いいよ、私はこっちの大きいほうでいいよ」と言うと、
Rさんは勝ち誇った顔で、私を振り返ってニヤリ。

あぁ、指図されていると思ってるんだ、気に入らないんだな、と分かったので、
少し距離を置いて、離れた所をウロウロしながら
家族が1時間ほど買い物をするのを見守った。

レジでお金を払う際、Mさんが小銭をポケットから出した。
それは片手いっぱい山盛りになるほど貯まっていて、
レジの人も「88セントでいいんだけど・・・」と苦笑しているので、
私が数えようと手を伸ばしたその時。
Rさんがサッと夫の手を.私から遠ざけて、
「私、わかるわよ!」 ピシャリと言った。
あまりの敵意にビックリしたが、そこでも何も言わずに、
出口脇で会計が終わるのを待った。
そして駐車場へ行き、トランクを開けて家族を手伝おうと思った、
その時だった。

Rさんが私の目の前に立ち、クルリッと私に背を向けたのだ。
まるで私をブロックするように。
これには私も黙っていられず、
「ねぇ、怒ってるの?私が何か悪いことした?」とRさんの背中に尋ねた。
キッと鋭い目つきで私を振り返ったRさんは、
「わかってるくせに。」と言う。
「全然わからないけど。」と返事をすると、私に対峙したRさんは突然、
耳を疑うようなことを言い放った。

「女はね、ほかの女に男を触ってほしくないのよ!
あたしの夫はすごくハンサムだから、
あんたがこの人を狙ってることくらい、わかってるわよ!」

私はあまりにも驚きすぎて、彼女が何を言っているのか理解できなかった。
しばらくして、レジでお金を数えるのを手伝おうと
私が手を伸ばした事を思い出し、あれが気に入らなかったのかも?
と思い当った。
しかしあまりにも理不尽なので、
「私達がこうして色々手伝っているのに、そういう言い方はあまりにも失礼だよ。
私たち、何も悪いことなんてしてないでしょう?」
と言った。

「言ってやろうか?あたし、言ってやるわよ!」とRさんがMさんに言い、
身を縮めて「言わなくていいよ、言うなよ」と小声で止める夫など気にも留めず、
そこから、Rさんが爆発した。

「あんたが私たち家族をうちに泊めたくなかったことくらい、わかってたわよ。
言葉で言われなくたって、毎日感じてたわ。
そういうところ、日本人はイラン人よりずっと酷いわね。
最初から、オスカーに「家に泊めるな」って言えばよかったのに、
それを言わなかった、あんたが全部悪いのよ!
それでいて裏でどうせオスカーにグチグチ言ってたんでしょ。
そういうやり方するあんたはBitchyよ!」
(注:Bワードは女性を蔑む、酷い言葉です。決して使ってはいけません。)

「あんたはパラノイアよ。
自分の旦那を横取りされると勝手に思い込んで、
あたし達が家にいるのが気に入らなかったんでしょ。
あんな年寄り、あたしの眼中にもないわよ!」
(注:オスカーはRさんの父親と同い年。私は彼女より年下だから、と思われます。)

「あんたがやったこと、全部、あたしのお父さんに言いつけてやるから。
もう二度と電話してこないで。
二度と私たちに関わらないで!」

そう言いながら、Rさんは車に積み込んでいた荷物を、
今度はカートに戻し始めた。
「何してるの?」と訊くと、
「あんたの車に乗っていくくらいなら、タクシー呼ぶわ!
早くここに、住所書きなさいよ!」
と紙を突き出してきた。

時間はもう夜の8時半を過ぎている。
さっきまで黒人が、危ない地区が、と大騒ぎしていたRさん。
怒りに我を忘れ、かなり大胆になっている。
何を言ってもダメなことは一目瞭然だったが、
脇に立っている双子の女の子は、
母親の言っている罵詈雑言がわかるので、
口を手で覆って顔面蒼白、オロオロしている。
その子どもたちを見た瞬間、どうにかしなければ、と思い、
「わかった。全部私のせいにしていいから。
私が全部悪いことにするから、車に乗ってアパートまで行こう。
そこで荷物を下ろして、私は帰るから。」
と、ヒステリックなRさんをなだめようと試みが、駄目だった。
黙っているMさんに向かってペルシャ語で
「危ないから・・・」と説明しようとすると、
「私の夫に話しかけないで!!」とRさんが叫ぶ。

カートを押して歩み去る家族に
「本当に乗って行かないの?」
と声を掛けたが、誇り高きイラン女性は家族を従えて
店の入り口の方へ行ってしまった。

ボー然としつつ車に乗り、オスカーに電話をかけて事の顛末を説明。
オスカーは私が冗談を言っていると思ったらしく、
何度も「ほんとに?ほんとに?」と言っていたが、
最後にはキレて
「そんな奴ら、ほったらかして帰ってこい!!」と言う。
「いいんだね、本当にいいんだね?」と何度か念を押した後、
イラン人家族を駐車場に残したまま、私は走り去った。


どんなに想像力を駆使しても予想だにしなかった展開に、
車の中で放心状態。
家にたどり着いた私の顔を見た瞬間に、オスカーが
「本当にごめん。悪かった。」と謝った。

滅多に謝ることのないオスカーが、
諸手を挙げて謝っているのを見て、ポロリと涙が出た。
そんな私を見て、長男が泣きそうになっていた。
「もう信じられないー!どういうことー!?」と笑いながら、
もう一度最初から説明して、
皆で「はー!?」ともう一度驚いた。

私 「なんか、悪いことしたっけ?」
オスカー 「いや、全然悪くない。こっちは手伝って、なにもかもしてやったじゃないか。」
私 「でも私が全部悪いことになってたよ。
  私が全部裏で糸を操って、酷い扱いをした、って言ってたよ。」
オスカー 「ありえない!頭が狂ってる!」

それから数時間して、オスカーが納得顔で言った。

A good thing happend!! (いいことが起きたな!)

いいこと、とはつまりこうだ。
もしアパートが決まらず、今日こうして強行引っ越しさせなければ、
あの狂った人達がどのくらい我が家に居座ったかわからない。
何週間、何か月たっても、のらりくらりといられても、
私もオスカーも「出ていけ」と言えるような人間じゃないから、
こうやって出て行ってくれたのは、なによりだった。
そして「もう連絡してくるな」と言ったのは相手であり、
おかげで、これから何もしてやる必要がなくなったじゃないか! と。

そうだけどー。
いいことって!

あたり強すぎだよー!
Comments

No title

フロリダ娘さ、お久しぶりです。
すごいことになってたんですねー
つまり、Rさんは最初から最後まで、フロリダ娘さんが旦那さんを誘惑しようとしていると思っていたわけなんでしょうか? 
文化が違うというのは怖いものです。それともこれはRさんの個人的な問題??
フロリダ娘さんにとっては、突然降ってわいたような災害でしたね。人が何を考えているのかはわからないものです。私もなんだか怖くなってきました。
でも、ご家族、特に旦那さんとは理解がむしろ深まったようでよかったです。

Re: ボーダさん

そうなんです、すごいことになってたんですー。
でもこの事件のおかげで、サボりにサボっていたブログ再開 笑
このRさん、どう考えても、色々な人の意見を聞いても正常な人間とは思えないんですが、反面、文化の違いと言う面も無きにしもあらず、と思っています。
シリーズが長くなってしまいましたが、最後のまとめとして、私の反省と考察をもう1話書く予定です。
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