イラン旅行記 <5> 山登り

ある日ラバサンの果樹園に親類たちが集まって、ランチを食べた。
ランチの後かたずけが終わり、腹ごなしに散歩に行くことになった。
男性陣が「山へ行こう!」と言う。
どんな山なんだ?と訊くと、すぐ近くのちょっとした山だ、という。
気楽な気持ちで歩き始めてビックリ!
そびえ立つはげ山にどんどん近づいていくではないか!
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しばし呆然としていると、後から来た長男と甥のサイードが追いついた。

長男は食後に、従兄からのレスリング攻撃に遭い、
「首が痛いから行かない」と半べそで、私達とは一緒に来なかった。
しかしサイードが半ば強引に、後から長男を連れてきてくれたのだ。

イランに到着した直後から、しつこいくらいのちょっかいに始まり、
20代の従兄が体当たり、くんずほぐれつ遊んでくれたり、
とにかく私とオスカー二人では到底賄いきれない量の愛情シャワーを、
家族の皆が代わる代わる注いでくれていた。
ずっと晴れなかった長男の表情も、
この止むことのない愛情攻撃に少しづつ、少しづつ、ほぐれて行っていた。
そしてこの日も「首が痛いのに何でレスリングするんだ!」と一度は怒ったものの、
もう一人の従兄に説得(無理矢理腕を引っ張られて)、山を登り始めたのだった。

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はげ山は近づいてみると、石ころと土埃にまみれた乾いた山肌だ。
一歩登るとずるずると滑り落ちるので、ほぼ四つん這いになって
所々に飛び出している岩に手や足を掛けて少しづつ登っていく。
息は上がるし、滑りそうでとっさに掴まった植物はチクチクと棘だらけ。
同行していた親類の(ちょと太めな)お兄ちゃんですら
「俺を置いて行ってくれ!ここで待ってるから。」
と何度も泣き言を言うほどだった。
こんな道程だとは(もちろん)誰も教えてくれなかったので、次男はスリッパ履き。
長男は手のひらに10か所以上も棘が入り込んでしまった。
それでも悪戦苦闘の末、どうにか全員で頂上へ。
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180度の見晴らしといい、吹き抜ける風といい、最高の気分だ。

長男が私に歩み寄ってきて、「できた・・・」とつぶやいた。
涙で声が詰まっている。
きっと私達とは別のレベルの達成感が、長男の心の中に押し寄せていたのだと思う。
1年近く思うように動けなかった彼は、自分の体に自信を無くしていた。
何をしても痛い、首が痛いから何もできない。
そう思い続けてきた日々が、この時、この瞬間に終わった。

実は出発前、アメリカでは色々な専門家をたらい回しにされた結果、
精神科の医師に、うつ病の薬とカウンセリングを勧められていた。
実際カウンセリングは3回ほど通ったのだが、
カウンセラーに慣れるためにゲームをしたりしている段階で
イランに出発することになった。
もし、あの時、大事を取ってイラン旅行に出掛けなかったら、
今、元気に中学校に通うことができたのか、かなり疑問だ。

「自分は大丈夫だ」
そう思えることが、ようやくできた。
長男が自分で体得しなければならなかった感覚だったと思う。
ずっとずっと晴れなかった雲間からパッと光が差し込んで、一気に青空が広がった様。
この日から、長男は少しづつ「痛い」と言う回数が減り、
滞在期間中、後半は筋トレ・アプリをダウンロードして腹筋を鍛え始めた。
もともと体を動かすことが好きな人間なので、火が付いたらメラメラと燃え上がったらしい。

この一歩が、越えられなかった回復への歩みだしが、イランに来たからできたのだと思う。
少々荒療治だったかもしれない。
でも皆の濃厚な愛情というセイフティーネットがあったから、できたことだ。
親戚や家族には感謝してもしきれない。

長男だけではなく、次男もこの1年近い間、
日々押し殺して我慢していた部分が多々あった。
それが毎日晴れ晴れとした表情で、走り回り、声を上げて笑い、
まるで解き放たれた鳥を見るよう。
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イランに来て、本当によかった!
Comments

バンザーイ!

荒療治があんがい大事だということ、イランに来てからわたしも学んだ気がします。頭で考えすぎるのが癖になっていて、体もついそれに影響されちゃうんでしょうかね。
それにしても、本当によかった。次男君も、よかったね~

砂漠人さん

バンザーイ!
本当にみるみる元気になっていく子ども達に、毎日小躍りしたいような気分でした。頭で考え、感情が荒ぶって、私たち家族は完全に行き詰まっていたのだと思います。それを熱く強かなイランの人達が、茶目っ気たっぷりの愛情と気配りで上手に「迷いの森」から私たちを連れだしてくれた、そんな感じです。環境の違いって大きいですねー。ある意味、まったく別の「逃げ場」がある私たちは本当にラッキーだと思います。
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