ご近所トラブル

ある日、車屋で店番をしていると電話が掛かってきた。

男「オスカーはいるか?」
私「今いません」
男「じゃあ伝えてくれ。
 お宅の孔雀がうちの庭に来ていて植物を食い荒らしてて困る。
 連れ戻しに来てほしい。」
私「わかりました、伝えます。
 どちらのお宅ですか?」

彼の家はすぐ隣近所ではなく、
うちの三軒先のお宅の裏庭と背中合わせになっているお宅だった。
早速オスカーに電話で伝えて見に行ってもらった。
人間が行こうとすると表道路に一旦出て、
車でぐるりと大回りするので、だいぶ距離がある。
しかし孔雀なら裏庭を通り抜けて塀をくぐるか、飛んで行けるのだろう。
私達が知らないうちに、そんな広範囲のお宅にまで足を伸ばしていたらしいのだ。

それから数日後、また電話が鳴った。
男「また孔雀がうちの庭に来てる!
 今まで食い散らかした植物の弁償代請求書を送りつけるからな!」
私「すみません、オスカーに連れ戻すように伝えます。」
男「今すぐに連れ戻しに来い!
 そうでなきゃ孔雀を撃ち殺すぞ!
 わかったか?」
私「はい、わかりました。そう伝えます。」

だいぶご立腹だったので、オスカーに直ぐに報告。
ところがオスカーの返答は意外なものだった。
「今度掛かってきたら、どうぞ撃ちたきゃ撃ってください、
って言えばいい。
あれは野生の孔雀でうちのじゃない、ってな。
ニワトリの餌を勝手に食べに来て居着いてしまったけど、
飼ってるわけじゃないから。」
繁殖に成功して、あんなに大騒ぎをしていた彼から、
こんな言葉が飛び出すとは予想していなかったので呆気にとられてしまった。

オスカーはこの電話の主を知っていると言う。
彼は元々三軒隣に住んでいた人で、私達が今の家を買い、
敷地の周りに塀を立てた時に、文句を言って市役所に申し立て、
住民会議にオスカーを呼び出した張本人だと言うのだ。
その後、彼は土地を2つに分割、うちと同じ通りの家を現在の住人に売り、
自分は裏手の土地に引っ越したので、顔を合わせることもなくなった。
その因縁の対決が再び・・・というわけだ。

オスカーは内心、撃ち殺すという言葉はどうせ脅しだろう、と思っていたのだろう。
そして孔雀がうまく逃げると信じて、その後も放し飼いのままだった。

ところが。
そこから男の攻撃が始まったのだ。

まず彼はアニマル・コントロールに電話をした。
これは野良犬・野良猫などを捕まえたりする機関で、
彼にしてみれば孔雀も取り除いてくれるだろうと期待したようだが、
「早く彼の家から鳥を連れ戻してください。」
と電話で言われただけだった。

次に彼が連絡したのは市のコード・エンフォースメント。
これは住民が敷地内に置いてはいけない物や、してはいけない事など、
市で決めている細かい条例に違反している住民に対応する機関だ。
職員が後日様子を見に来て、屋根に登っている孔雀を発見。
違反を言い渡された。
卵を産む鳥類を庭で飼ってはいけない、という決まりがあるらしい。
二週間ほどの猶予を言い渡され、再点検に来るのだそうだ。
オスカーは始めの一週間何もせずにいて、
「どうするの?」
「地元の動物園に寄付しよう」
「お客さんでも知り合いでもいいから、もらってくれる人を探そうよ」
と、口うるさく言う私に苦い顔をし続けたのだが、
十日目くらいになって鳥小屋の中に孔雀達を閉じ込めてしまった。
自宅裏にある鳥小屋には母孔雀と子供たちが六羽。
車屋の建物の裏にある鳩小屋が空っぽになっていたので、
そこに父孔雀と子どもを一羽入れた。
しかし今まで自由気ままに歩き回っていた孔雀達が
正真正銘の『籠の鳥』になってしまい、私としては見るに忍びない。

そうこうしている間に、怒った男は三つ目の行動に出た。
州の機関であるエンバイロメント・コントロールに
「あの車屋はエンジン油を地面に垂れ流している」と言う
嘘八百の苦情を送ったのだ。
この機関は定期的に検査に来るし、
うちの車屋も産業廃棄物を扱う店として登録している。
さらにこの地区を担当する局長は、
オスカーの大学院時代のクラスメートなのだ。
なので検査官はやってきたものの確認で終わり、
あとはクレイジーな苦情男の話になった。
「孔雀を撃ち殺すだって?
そんなことしたら数分でパトカーが家を取り囲んで
手錠ガチャン!ガチャン!だよ。」
と検査官は冗談めかして言っていたが、
今まで内心ドキドキしていた私は目からウロコな気分。
市内で発砲が許されるのは、犯罪者が家宅侵入して来た場合のみ、だそうだ。
つい先日も家の近くで大きな鹿が歩いているのを見たけれど、
野生動物にバンバン発砲していたら確かに大変なことになる。
彼が電話で私に言った言葉は、完全な脅しだったのだ。


私にしてみれば、これまで二年間よく誰にも文句を言われず、
孔雀を飼っていられたものだな、と思う。
しかも最初の二羽からどんどん増えて九羽になってしまったのだから、
苦情が出るのは時間の問題だったのではないか?と思う。
オスカーが求める生活は、どこか田舎の広大な敷地でのみ可能なのだろう。
今は自営業の車屋のすぐ裏に居を構え、通勤徒歩二分。
この便利さを確保したまま、自宅を動植物園にしてしまうなど、
所詮は夢物語だったのだ。

孔雀一家はどうなってしまうのか?
それはまた後日、ご報告する予定である。
Comments

same here :-)

九羽! 夢物語はぜひ続行していただきたいですが、現実は容易にはいきませんよね。
いや~、申し訳ないですが、救われました! うちも似たようなひどいトラブルがありますが、砂漠の果てでもアメリカでも同じなんだと思えて(笑)。
孔雀の無事を祈るのみです。

砂漠人さん

世界のどこにいてもご近所トラブルはあるもの 笑
昨日3軒隣に住む若いママと1歳児が来て
「クジャクを見ないんだけどどうしたの?」と訊いてました。
お怒りおじさんから家を買ったのが彼女達な訳ですが、裏庭で子どもや両親などと集まってホリデーを過ごしていると
「静かにしろ!」などと文句を言われるのだそうです。
彼女曰く「人の幸せが許せない人間なのよ」。
クジャクが彼女の庭に行くと1歳児が大喜びでエサをあげてくれていたんだそうで、クジャクの歌(自作)まで作っていたとか。
「クジャク達がまた歩き回れる様な方法を考えましょう!」と言いながら帰って行きました。
市から言い渡された期限は今週切れました。
どうなることやら...

No title

う~ん。難しいね。
私は生き物が結構好きだから気にしないけど、すべての人が好きな訳じゃないから。
やはり人の家に行かないようにすべきだとは思うけど。。。
ウチは犬を飼っていた時に犬が愛想良すぎてストーカー的な人が表れて揉めたことが。
毎年保健所に「犬を虐待している」と通報されて困ったよ。

Ashさん

犬のストーカー… 歪んだ愛ですな。
色んな人がいるのは当たり前だけど、この怒りおじさんはどうやら色々問題を抱えているらしくてキレやすくなってるみたい。
でもやっぱり放し飼いはいけないのだよね。ただ籠の鳥って可哀想だなぁと思う。だから私はもともと鳥を飼うってのが納得いかないんだけど、オスカーの趣味だし、そう言い始めたら水槽の中の魚は?って反論されるだろうから。
私としてはクジャク達が伸び伸び暮らせる田舎の人に引き取って欲しいよ。
Post a comment
Only the blog author may view the comment.